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アリスとドードー

『不思議の国のアリス』第三章 ― コーカス・レース

RE:FRAME ― かざして読む、物語のある額装アート

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ジョン・テニエル画 ― ドードーがアリスに指ぬきを返す場面(1865年・初版の挿絵)

壁にかかった小さな絵。

その向こう側には、160年以上読み継がれてきた物語と絶滅した鳥の本当の歴史が隠れています。どうぞ、ゆっくり読んでください。

みんな勝ち。みんなに賞品を。

― ドードーの言葉 ―

涙の池でびしょ濡れになった動物たちが、体を乾かすために始めた不思議なレース。スタートもゴールも決めず、輪になって思い思いに走ります。その結末を言い表したのが、この一言でした。

目 次

第一章 涙の池とコーカス・レース

第二章 二人の作者 ― キャロルとテニエル

第三章 本物のドードー

第四章 大人の読み方 ― 風刺としてのアリス

第五章 なぜ「dodo」なのか

​作品について 額装とパブリックドメイン

第一章

涙の池とコーカス・レース

物語の始まりは、アリスが流した涙の池でした。小さくなったり大きくなったりを繰り返すうちに、アリスは自分の涙でできた池に落ちてしまいます。泳いで岸にたどり着いたのは、アリスだけではありませんでした。インコのローリー、ワシの子のイーグレット、カニやアヒル、ネズミ、そして大きな鳥ドードー。みんな、びしょ濡れです。

「どうしたら乾くか」の相談が始まります。ネズミは「いちばん乾く(退屈な)話」として歴史の講義を始めますが、誰の体も乾きません。そこでドードーが重々しく提案したのが、コーカス・レースでした。

やり方は、とてもいい加減です。まず円を描く(正確な形でなくてよい)。みんなを円のあちこちに立たせる。「用意、ドン」もありません。各自が好きなときに走り出し、好きなときにやめます。半時間ほどでみんなすっかり乾いたところで、ドードーが突然「レースは終わり!」と叫びました。

「で、誰が勝ったの?」――全員に詰め寄られたドードーは、指を額に当てて長く考え込み、やがて宣言します。「みんな勝ち。みんなに賞品を。」賞品の砂糖菓子は、アリスがポケットから出して配ることになりました。そしてアリス自身の賞品として、ドードーが差し出したのが、冒頭の挿絵の場面です。アリスがレース前に持っていた自分の指ぬきを、「この上品な指ぬきをお受け取りください」と、厳かにお辞儀をしながら返したのでした。

第二章

二人の作者 ― キャロルとテニエル

ルイス・キャロル

LEWIS CARROLL / 1832 – 1898

本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。オックスフォード大学クライスト・チャーチの数学講師でした。1862年の夏、テムズ川のボート遊びの途中で、学寮長の娘アリス・リデルとその姉妹に即興で語って聞かせた物語がもとになり、1865年に『不思議の国のアリス』が刊行されます。論理と数式の人が書いた、言葉遊びとナンセンスの傑作でした。

ドードーは、キャロル自身がモデルだと言われています。彼は吃音があり、自分の姓を「ドー・ドー・ドジソン」と言いがちだった――そこから「ドードー」になったという説がよく知られています。

ジョン・テニエル

JOHN TENNIEL / 1820 – 1914

風刺漫画誌『パンチ』の看板画家。キャロルに請われて『アリス』に42点の挿絵を描き、私たちが思い浮かべるアリスの姿そのものを決定づけました。杖をついて物々しく立つこのドードーの姿も、テニエルの筆によるものです。なお、この絵でドードーが差し出している小さなものが、第一章で触れた「賞品」―アリス自身の指ぬきです。

レースの参加者は、実在の顔ぶれ

ドードー ドジソン(キャロル)自身

アヒル ボートを共にしたダックワース牧師

ローリー 長女ロリーナ・リデル

イーグレット 三女イーディス・リデル

コーカス・レースの動物たちは、1862年のボート遊びの同乗者たちだと言われています。アリス(次女)が物語の主人公になったように、作者本人まで鳥になって参加していたのですね。

第三章

本物のドードー

ドードーは、空想の鳥ではありません。

インド洋のモーリシャス島にだけ暮らしていた、飛べない大きな鳥です。ハトの仲間で、天敵のいない島で空を飛ぶ必要をなくし、地上を歩く体になりました。

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ルーラント・サヴェリー画のドードー(1626年)の複製版画。

テニエルのドードーの姿も、この絵の系統を受け継いでいると言われます。

1598年、オランダの船が島に到着し、ドードーは世界に知られるようになりました。しかし、人間の持ち込んだ動物たちや乱獲によって数は急速に減り、17世紀の終わりごろには姿を消します。英語には今も “dead as a dodo”(ドードーのように絶滅した=完全に時代遅れ)という表現が残っています。

標本がほとんど残らなかったため、ドードーの姿はサヴェリーらの絵画から知るほかありません。キャロルも、オックスフォード大学自然史博物館に伝わるドードーの標本や絵をよく知っていたと言われます。「絶滅した鳥」が、世界でいちばん有名な児童文学の中で生き続けている――それも、この物語の不思議な運命です。

第四章

大人の読み方 ― 風刺としてのアリス

この場面には、大人にしか分からない味わいもあると聞きます。

「コーカス」は、もともと政治の世界で党員集会や幹部会を指す言葉。輪になってぐるぐる走り、勝敗も決めずに「みんな勝ち」で賞品を配る場面は、会議や選挙の空回りへの皮肉として読まれてきました。物語の後半に登場する女王さまの気まぐれな裁判を、司法の茶番と読む解釈もあります。

もっとも、キャロルが明確な政治寓話として書いた証拠は薄く、芯にあるのはアリスのための物語と、言葉遊び・論理遊び、そしてヴィクトリア朝の教訓的な詩のパロディだというのが、定説に近い見方です。

だから読み方は、一つに決めなくて大丈夫。子どもは物語として、大人は風刺として。二重に楽しめることこそ、この小さな本が160年以上も読み継がれてきた強さなのだと思います。

第五章

なぜ「dodo」なのか

この額とマットの組み合わせを選んだのは、art & design dodo。

その「dodo」は、このコーカス・レースのドードーが好きで付けた名前です。

順位を決めず「みんな勝ち」と言ってしまうレース…面白いと思いませんか?

壁のドードーと、屋号のドードー。かざした人だけが気づく、小さなつながりでした。

この作品について

作品

ジョン・テニエル挿絵 ― アリスとドードー(指ぬきの贈呈)
『不思議の国のアリス』第三章「コーカス・レースと長いお話」より

原作

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(1865年刊)

パブリックドメインについて

作者ルイス・キャロル(1898年没)と画家ジョン・テニエル(1914年没)の著作権は、保護期間を満了しています。そのため本作の挿絵はパブリックドメイン――誰もが自由に使うことのできる、文化の共有財産として世界中で親しまれています。額装アートの絵柄には、こうしたパブリックドメインの名作を用いています。

画像出典:テニエル挿絵 ― V&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)公開資料/サヴェリーのドードー ― Royal Society 公開資料(いずれも原画はパブリックドメイン)

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